謎多き「しゃっくり」はなぜ起こる? 効果的な止め方はあるのか!?

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研究・文献

 しゃっくりが会議中に出たり、デート中に出ると恥ずかしいですよね。私は「ヒック!!」と意識と反して大きくて変な声が出るので、深刻な会議中にも関わらず、周りを笑わせてしまったことも(笑)

少し面白い記事をナショジオの日本語サイトに掲載されていたので紹介しよう!

 しゃっくりのルーツは人類の進化の歴史と深い関わりがある。だが、しゃっくりの起源とその目的については、現代の医学をもってしても、いまだにはっきりと分かっていない。

「しゃっくりのように単純な生理現象を、医師はあまり重視してきませんでした」と、スイスのチューリヒ大学病院の消化器専門医、マーク・フォックス氏は言う。「しかし飲み込む、食べる、飲むなど日常行っている行動がうまくいかないと、死ぬことはないにしても生活の質は著しく低下してしまいます」

そもそもなぜ、しゃっくりという現象が起こるようになったのか? そして一体どうすれば止められるのだろうか? 徐々にではあるが、研究者たちはこの2つの大きな謎の答えに迫りつつある。

しゃっくりが出るのは、人間がかつて魚だったから?

 ひざのお皿の下を軽くたたくと足が跳ね上がるが、しゃっくりもこれと同じ反射運動だ。しゃっくりは哺乳類全般に見られる現象で、イヌやウマやウサギも例外ではない。

しゃっくりは、横隔膜と脳をつなぐ神経経路を信号が繰り返し行き来することで起こる。横隔膜とは、胸腔と腹腔を仕切る膜状の筋肉だ。これが何らかの刺激によって急激に収縮して下がると、空気を吸う時と同じように胸腔の容積が増す。そして肺に空気が吸い込まれるのとほぼ同時に、反射によって喉頭蓋(食物が気管に入るのを防ぐ喉頭の組織)が素早く閉じられ、「ヒック」という音が出る。これがしゃっくりだ。この現象は反射が止められるまで続く。

大抵の場合、しゃっくりは横隔神経や迷走神経が刺激されることで起きる。いずれの神経も人類の祖先であった魚類や両生類で発達したものだ。多くの場合、しゃっくりには横隔神経が関係している。これは胸部を通って横隔膜に達する長い神経で、その原型は人類の祖先だった魚類で初めて出現した。しかし、その時の横隔神経は、横隔膜ではなく、脳のすぐ隣にある鰓(えら)につながっていたため短かった。現代の哺乳類にはさまざまな神経があるため、横隔神経は刺激を受けやすくなっている。

魚類の一部が陸でも過ごすことができる両生類へ進化していく過程で、しゃっくりが役に立った可能性はある。陸上の肺呼吸と水中の鰓呼吸を切り替える際、「しゃっくり」をすることで喉頭蓋に当たるものが閉じられ、水が肺ではなく口から鰓へ流れるようにしていたと考えられる。

進化とは、生物がその時にもっていた特徴を生息環境に適合させていく過程であり、完璧とは程遠いものだということを思い起こさせてくれると、カナダ、クイーンズ大学の救急医学の教授で、長年しゃっくりを研究してきたダン・ハウズ氏は言う。

それとも、しゃっくりが出るのは、赤ちゃんだった頃の名残り?

 だが、もはや水中では呼吸ができない人間に、なぜしゃっくりという反射運動が残ったのだろう。

それは、しゃっくりに別の利点があるからだろうと、ハウズ氏は言う。まず、ほとんどの哺乳類の赤ちゃんは、乳を飲む。赤ちゃんはおとなよりも頻繁にしゃっくりをする。乳を飲む際は、空気も飲み込んでしまう。ハウズ氏は、しゃっくりはげっぷと同様に胃にたまった空気を反射的に外に出すのに役立っているのではないかという説を提唱している。

げっぷをすると、赤ちゃんが飲める乳の量は20〜30%増えることを示す証拠もある。げっぷはエネルギー摂取において利点があり、「生存に極めて有利」だとハウズ氏は言う。

しゃっくりを頻繁にするのは、赤ちゃん(最大で1日のうち1%の時間をしゃっくりに費やしているという)だけではない。妊娠10週目の胎児もしゃっくりをする。

英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の研究員、キンバリー・ホワイトヘッド氏は、しゃっくりをすることで胎児の脳は体のさまざまな部分の位置を覚えているのではないかという仮説を立てている。「赤ちゃんは呼吸をコントロールする横隔膜の位置などを覚える必要があります」と氏は言う。胎児はしゃっくりをすることで、誕生後すぐに元気よく呼吸ができるように「練習」しているのだろうと氏は考えている。

また、ホワイトヘッド氏は、未熟児から生後数カ月の赤ちゃんがしゃっくりをした時の脳波を測定した。すると、大脳皮質のうち、肺や横隔膜がある胸腔をつかさどる箇所が反応した。これはしゃっくりが引き金となって脳の活動が始まり、赤ちゃんが横隔膜などの筋肉の位置を脳に覚えさせるのを助けていることを示している。この論文は2019年に学術誌「Clinical Neurophysiology」に掲載された。

誰かしゃっくりを止めて!笑笑

 米国では毎年約4000人がしゃっくりで医療機関を受診するという。ほとんどの場合、深刻な病気のせいではないが、止まらないしゃっくりで困らない人はまずいないだろう。事実、グーグルで最も多く検索される健康に関する質問の1つはしゃっくりだ。

しゃっくりは大抵、2日以内に自然と治まる。しかし、長引くしゃっくりには、脳腫瘍など深刻な病気が隠れている可能性もある。また、難治性のしゃっくりは、がんの化学療法やステロイド剤の使用でよく見られる副作用であり、患者が51歳以上の男性だと9割以上で現れる。難治性しゃっくりの場合、その原因となっている病を治療するのが一番の方法だ。

しゃっくりのさまざまな治療薬も試されている。その中には筋弛緩(しかん)薬や横隔膜の痙攣(けいれん)を抑える薬、神経の反応を変える薬などがあるが、「特定の治療法を推奨すべき質の高い証拠は不足している」と、米ロヨラ大学の神経科学者チームは2018年に学術誌「Current Neurology and Neuroscience Reports」に発表した論文で記している。

福岡県久留米市の聖マリア病院の研究チームは、しゃっくりに悩む患者に二酸化炭素の濃度を高めたガスを吸わせている。「簡単に言えば、血中の二酸化炭素濃度を一定まで高めることで、脳に窒息の危険を感じさせ、しゃっくりするのを忘れさせます」と、同病院の呼吸器外科医でしゃっくりの治療に携わる大渕俊朗氏は書いている。

しかし、大渕医師を訪ねることができない場合は、コップの水を一気に飲む、逆立ちをする、誰かに驚かせてもらうなどといった昔ながらの方法も案外効果がある。なぜなら、こうした民間療法も大渕医師の治療法も、基本原理では同じだからだ。つまり、繰り返す反射を止め、神経や筋肉を他のことに集中させることだと、米テキサス大学サンアントニオ校の神経集中治療医のアリ・セイフィ氏は言う。氏は、脳外科手術のあとで説明のつかないしゃっくりに悩まされる患者を見て、治療法を探し続けてきた。

例えばコップの水を一気に飲むと、横隔膜を動かすことに横隔神経は集中する。また恐怖を感じると、体の活動を鎮静化する働きのある迷走神経が活性化する。こうした働きによってしゃっくりは止まるという仕組みだ。

しかし、セイフィ氏はより効果的にしゃっくりを止められるストロー「ヒッカウェイ」を開発した。このストローを使って飲み物を飲むには、濃いミルクシェイクを飲む時のように力強く吸い上げなければならない。セイフィ氏が立てた仮説によると、この行為に横隔神経と迷走神経を関わらせることで、しゃっくりが止まるのだという。

文=ALEJANDRA BORUNDA/訳=三好由美子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2023年4月13日公開)

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