身体が無い脳神経細胞に知性があることをポンゲームをさせることで証明したレポート(Neuron)

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研究・文献

身体が無い脳細胞だけでも、知性を備えている研究が著名な学会誌「Neuron」でパブリッシュされていたので紹介しよう。簡潔に説明すると、脳細胞だけでゲームが出来ちゃったって!って研究発表だ。人間の思考や感情は、魂があってこそだが、今回の研究はやはり、人の思考は脳細胞間のシナプスの伝達機能にすぎない事を証明するひとつのエビデンスである。

SFのような話だがどのような実験だったのか?

この研究はオーストラリアの「Cortical Labs」のブレット・ケーガン博士によるものだが、研究にあたって、マウスとヒトの脳神経細胞を培養して人工の「知性モデル」を作った。電極の上に神経細胞をのせ、システムをポンゲーム(パドルを動かして、飛んでくるボールを跳ね返す卓球ゲームのようなもの)に接続すると、神経細胞にパドルに対するボールの位置情報が電気的に伝えられる装置を作った。すると、神経細胞は自発的に学習し、まるで意識を持ったようにボールを跳ね返すプレイをやってのけたのだ。そのゲームの様子を収めたビデオが公開されている。

 序盤、たまたまじゃない?って私も思ったのだが、後半は明らかにボールを打ち返そうとする意志を感じるパドルの動かし方だ!しかもこの学習反応はたった5分間のゲームプレイで見られた事が驚きで、脳神経細胞の学習能力の高さを伺わせるものだ。

この研究は『Neuron』(2022年10月12日付)に掲載された。

不確実性を嫌う脳神経細胞(ある意味機械的?)

 チンパンジーなど知性が高い動物も同じようなゲームをプレイさせることは知られており、うまく覚えたら、餌で褒めてあげることで次のステップに進んでいく。但し、今回は肉体を持たない脳神経細胞であり、ご褒美を与えることができない。少し難しい話になるが、博士は肉体を持たない脳神経細胞に対する挙動の動機は「自由エネルギーの原理」だと説いている。神経細胞は、自身の周りの環境において、エントロピーを嫌う性質がある。エントロピーって何?って思うかもしれないが、簡単に表現すると「乱雑さ」「でたらめ」なことだ。ゲームの「ポン」で言えば、ボールを跳ね返さないとゲームが終わってしまい、次のボールの開始位置は予測できない。逆に、パドルに当てればボールが飛んでいく方向を予測しやすく、ゲーム全体のエントロピーを下げることになる。つまり神経細胞は、ゲームの遊び方を学んでいるわけでなく、実際には不確実性を抑える方法を学習しているのだ。少し、そうなると意識というより機械的なものに感じてしまう。

意識の研究の出発的かもしれない

 不確実性を避ける脳神経システムが積み重なり、ヒトの意識を構築する礎になっている…。「人間はなぜ複雑な意識と思考があるのか」「知性とは一体なにか」。小さいとき、なんで自分は居るんだろ、なんで考えることができるんだろう、死んだらそれはどうなるんだろうなど、考えて眠れない夜を過ごした事は少なからずあるはずだ。

 ヒトの「意識」を知るためのスタートに人類は踏み込んだのかもしれない。研究チームは、お酒に酔った神経細胞の自己組織化を観察する予定であるそうだ。「泥酔した人のように、神経細胞のゲームプレイが下手になるのかどうか確かめてみるつもりです」と、ケーガン博士は述べている…。真面目に研究しているのか半分遊び心でやっているのは分からないが、研究者って素敵ですね。私も今日はお酒を飲んでゆっくり眠ろうと思う。

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